FXとドルとの関係
卸売物価で計算した購買力平価が円安の限界水準というのは、ドルとの関係だけでなく、ユーロや英ポンドとの関係についてもおおむね当てはまる。ユーロ円も、ポンド円も、購買力平価を超えた円安・ユーロ高、円安・ポンド高は、1990年、1998年など、少なくとも1990年以降で調べた限りそれぞれ3−4回ぐらいしかなかった。  そして今回は、そんな過去の行き過ぎ相場を大きく上回ってクロス円での円安が進んでいる。購買力平価はそれぞれ、ユーロ円が130円程度、ポンド円が200円程度だが、すでにユーロ、ポンドともそれを15%以上も上ぶれてきた。  ところで、これまで最もクロス円の行き過ぎが拡大したのは1998年夏だった。この時、ポンド円はまさに購買力平価を15%以上もポンド高・円安に上ぶれる展開となった。しかしそんな行き過ぎたポンド高・円安は、たったの1ヶ月で一気に修正された。きっかけはドル円の暴落だった。 FX  1998年10月は、ある意味でドル円史上最悪の月となった。10月が始まった時まだ135円程度だったドル円は、10月7日一日で130円から一気に118円まで暴落した。そして翌8日には120円から111円まで連日の大暴落となった。つまり7−8日というたったの2日で130円から110円まで20円もの暴落となったのである。 FX取引、FX初心者、くりっく365、FX口座開設、FX資料請求 こういった中ではユーロ円(当時はマルク円)やポンド円も暴落、一気に行き過ぎた円安は修正されたのである。さて、私は最初に円の総合力を示す実効相場で、名目ベースは98年10月以来の水準まで下落したと書いた。行き過ぎ円安の修正が始まる直前のところまで円安はすでに広がっているようなのである。2006年の為替は、異例の小動きが続いた。ただ、その中で円は、総合力を示す実効相場で見ると一段と下落拡大、21世紀に入ってからの円安値を大きく更新してきた。これは、小泉政権による脱デフレのための円安政策の余震ではないかと私は思っている。もしそうであれば、円安は最終局面で、久しぶりに本格円高リスクを試される局面が近づきつつあるのではないか。 日銀が公表している円の実効相場は、名目ベースでは2006年中に一段と下落し、21世紀に入ってからの最安値だった2002年春の水準を更新、1998年10月以来の水準まで下落した。また、これを物価調整したのが実質実効相場だが、それは1985年以来、何と20年以上ぶりの安値水準まで大幅な円安進行となった。  このように、円の総合力は、名目ベースで8年ぶり、実質ベースでは21年ぶりの大幅円安となったわけだが、これは為替ということで最も身近なドル円相場が110円台で推移しているような中ではほとんど実感がないものだろう。別な言い方をすると、それだけ米ドル以外の通貨に対していかに大幅な円安が進んだかということでもある。  では、このような実効相場で8年ぶり、21年ぶりといった大幅な円安をもたらした原因は何か。私からすると、それは、小泉政権の脱デフレ政策の切り札こそが円安政策だったからではないかと思っている。小泉政権の任期中の2001−2006年にかけて日本経済は深刻なデフレから脱却する目処が立ったわけだが、その最大の功労者がじつは円安だったのではないか。  小泉政権の円安政策は、公式に認知されたものではないが、たとえば為替介入額などを見る限り明らかなことではないか。もともと日本の為替介入額は、同じ先進国の欧米などと比べて極端に大きいが、小泉政権の任期中のそれはより突出していたのである。  ちなみに2005年までの10年間の為替介入額は、日本は5500億ドル程度にも上っていた。これに対して米国はたったの20億ドル弱。つまり10年間の介入額は、日本のそれが米国の350倍だった。  そんな巨額介入・日本でも、とくに介入額が激増したのが小泉政権時代だった。小泉政権時代の介入額は4000億ドル弱にも達し、2005年までの10年間の介入総額に対し何と7割以上にも達していた。  これだけの異常な規模の介入は、為替需給を大いにかく乱させた可能性があったのではないか。貿易黒字大国の日本で、円安、とくに実効相場で見た大幅な円安が広がった根本を辿っていくと、このような空前の円売り介入があっただろう。 FX  ではなぜこのような円安政策がとられたのか。それはデフレ経済下での通貨高とは絶対悪であり、その意味で円高の阻止こそが深刻なデフレの続いた日本経済を崩壊から救い出すために必要なことだったからだろう。  ただし、そんなデフレからも、いよいよ脱出の見通しとなってきた。2004年までの10年間で6000億ドル近くにも達した日本の為替介入額、しかし2005年は介入ゼロとなった。これは脱デフレと関係したことだろう。  要するに、もはや脱デフレのための円安政策は終わっている。そうであれば、異常介入による需給の混乱が一段落し、そして小泉政権から安倍政権に交代して円安政策が転換していることを、市場が気付きさえすれば、いつ円安から円高へ豹変してもおかしくないだろう。 今年のドル円相場は、異例なほど方向感に迷う展開が長期化してきた。その原因の一つは、これまた早期利下げか、利上げ再開かと真っ二つに分かれた見方の続いてきた米金融政策だろう。ただし、かりに今後利下げへ向かうとして、果たしてそれはドル売りとなるのか。経験則的には、じつは米利下げ局面ではドル高が基本だった。今回もそうなるのか、かりにこれまでとは異なるドル安になるとしたら、その原因は円にあるのではないか。先日、セミナーが終わった後、お客様の一人からこんな質問をいただいた。  「米利下げでも、これまではむしろドル高になっていたと以前説明していました。今回が違うとするなら、その理由は何ですか?」  これは、私がよく説明する購買力平価と為替の関係で考えるとわかりやすい。たとえば、過去の米利下げシリーズの始まりは、89年6月、95年7月、2001年1月だったが、当時のドル円はそれぞれ137円、88円、116円だった。これに対して購買力平価はそれぞれ175円、151円、129円だった。  私はよく、購買力平価は、過去20年間ドル高の「超えられない壁」、上限となってきたと説明する。ところで、これまでの利下げ開始時のドル円は、そんなドル上限よりかなりドル安水準だった。つまりドルの上げ余地が大きかったわけだ。FX  では今回はどうかというと、購買力平価は118円前後。たとえば、来年第1四半期に利下げ開始となっても、その時に100円ぐらいだったらドルは上がるかもしれないが、118円を超えて上がっていくという可能性は低いだろう。  私はよく、米利下げ局面でドル高になるのは、米国への海外資本流入の中心は債券で、利下げにより債券高=ドル高になるためと説明してきた。それにもかかわらず今回ドル高に限界があると考えているのは、ドル高・円安の限界水準が近いからと考えているわけで、それはドル高というより、むしろ円安の限界が近いということだと思っている。ところで、12月も今週で前半が終わることになるが、昨年はそんな12月前半が終わる間際にドル急反落の乱高下となった。このため市場参加者の間でも、一年前の悪夢再現への関心が高いとされる。  ところで、あらためて調べてみると、12月前半の波乱相場は昨年に限ったことではない。例年この時期は、ドル急落、急騰が起こりやすいようだ。  昨年まで5年連続で、12月の第1週ないし第2週に週足実体部2円以上のドル陽線(ドル高)ないし陰線(ドル安)となっていた。  週足実体部とは、週の寄り付きと引け値の差だが、それが2円以上というのは過去半年間31週で6週しかなかった。つまり確率2割以下。それほど大幅な動きが、過去5年連続で12月第1週ないし第2週で起こっていたということは、この時期に乱高下が起こりやすいことを示しているだろう。  ちなみに、過去5年間で、12月前半に起こった大幅陽線ないし陰線は、そのうち4年で月足の陽線ないし陰線と一致していた。その意味では、もしも今月ドル安なら、12月前半の今のタイミングはドル急落を警戒する確率が高く、逆に今月ドル高なら、ドル急反騰が起こる確率が高いだろう。 ドルは、対円でこそ史上最安値(95年4月19日79.75円)はおろか、年初来安値(6月1日108.97円)に比べてもまだほど遠い水準にあるが、総合力を示す実効相場で見ると、じつはすでに底割れ寸前の「崖っぷち」に立っている。FRBが算出している主要通貨を対象としたドル実効相場(メジャーインデックス)は、12月に入り80.1まで下落した。これは、年初来最安値である、5月11日に記録した80.02が寸前まで近づいたといった意味になる。 FX ところで、メジャーインデックスの史上最安値は、95年4月19日の79.21と、2004年12月30日の79.27。前者は対円でドルが史上最安値を記録した日、そして後者は対ユーロでドルが史上最安値を記録した日である。  このように、メジャーインデックスが80割れ寸前まで下落してきたということは、総合力で見たドルが、年初来安値更新含みになっているとともに、一気に史上最安値更新含みにもなっていることを示す。極端な言い方をすると、ドルは底割れ寸前の状況までじつは追い込まれているということにもなるだろう。  ドル円が115円程度で推移している中で、ドル底割れ含みといった実感はまずないだろう。しかし対ユーロで、ドルが史上最安値(2004年12月30日1.3670ドル)に急接近していることからすると、総合力で見たドルが「崖っぷち」に立っているということもイメージしやすくなるだろう。  さて、今年5−6月は、ドル実効相場の史上最安値更新がならず、ドルは底割れ回避で反発に転じた。今回もそうなるのか。それとも今回こそは、ついに史上最安値更新となるようなら、それはドル底割れが始まった可能性を警戒する必要があるだ。